本研究の目的は、実証面では国連グローバル・コンパクト(GC)の構想から発展に至る過程を丹念に追うことであり、理論面では、GCをいかにとらえるかという問いに答えるための分析枠組みを構築することである。 今年度は主に理論面を中心に研究を行ない、その成果の一部を日本国際政治学会年次大会にて報告した。報告では、コンストラクティヴィストの学習論と(彼らが陰に陽に基づいている)教育論の特徴と限界を明らかにして、それとは異なる学習論を提示した。その際、ジョン・デューイ(John Dewey)のプラグマティズムとその影響を受けた今日の議論に依拠し、コンストラクティヴィズムの新たな方向性の1つを素描した。より具体的には、学習論について以下のように主張した。1.コンストラクティヴィストは、社会的学習を知識や規範の受容・獲得("learning about")と捉え、社会化や内在化を重視する。このような学習論は、内的・認知的な側面を強調しすぎており、十分に「社会的」ではない。2.社会的学習として、より重要なのは、共同体に参加し、共同体における実践を身につけて共同体の一員(たとえば外交官、民主国家、企業市民)になること("learning to be")である。3.継続的かつ急激に変化する社会において重要なのは、"learning by doing"および(自らの、他者の、そして他者との協働の)経験からの学習(learning from experience)に基づく、経験の継続的再構成(政策・実践・制度の継続的更新・適応)およびそれを可能にする適応能力である。報告では、以上の枠組みに基づいてGCにおける実験、学習、経験を取り上げ、説明を試みた。 以上のように、本研究は既存の研究とは異なる枠組みを提示しようとしている点で意義があると考える。
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