本研究の目的は、実証面では国連グローバル・コンパクト(GC)の構想から発展に至る過程を丹念に追うことであり、理論面では、GCをいかにとらえるかという問いに答えるための分析枠組みを構築することである。 平成20年度は、理論面と実証面の研究を進め、その成果の一部を日本国際経済法学会年次大会にて報告した。報告では、GCがグローバル・ガバナンスにどのような意義を持つかを論じた。その際、1. 「GCとは何か」を論じ、2. 法学や国際法学において展開されているソフトロー論や「ニュー・ガバナンス」論に依拠しつつ、GC原則をソフトローとみなせること、3. GC原則の履行を促進するために、GCが「規制のネットワーク」と呼べるものを構築しつつあることを明らかにした。すなわち、 1. GCを捉えるためのキーワードとして、フォーラム・社交場、学習サークル、ネットワークのハブ、プロデューサー、シンボル・シグナルを挙げた。さらに、GCの意義として、規範不足への対処、グローバル・ガバナンスの「新たなモデル」、言説、学習、ハブ化、組織化、権威付けを指摘した。 2. ソフトローとしてのGC原則の機能として、(1)柔軟性・実際性、(2)基本原則の確定、(3)企業の自主行動規範のモデル、(4)、賛同者の動員、(5)経営戦略立案への制約の極小化、(6)不確実性への対応・適応の円滑化、(7)多様なステークホルダー間の妥協と協力の促進、(8)議題設定を指摘した。 3. GC原則の最大の特徴は一般性・普遍性・曖昧性である。そのため、GCは多様な行動規範やイニシアティブとの互換性・相互運用性を備えており、それらと連携して多様な「規制」メカニズムの網を構築している。
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