研究概要 |
本研究は国連グローバル・コンパクト(以下、UNGC)の動態を理論的・実証的に解明することを目指すものである。平成22年度に実施した研究の成果は、(1)日中韓のUNGC参加企業に対するアンケート調査の分析と、(2)UNGCにおける「制度起業家」の役割を分析する枠組みの構築に分けられる。 実証的研究については、UNGC日中韓円卓会議の名の下で2010年3月から4月にかけてアンケート調査を実施した(研究代表者は、日本の調査実施主体である法政大学現代法研究所国連グローバル・コンパクト研究センターの一員として、調査に関わった)。研究代表者は、同調査によって得られたデータに基づき、日中韓のUNGC参加企業の国別の特徴を探る分析を行った。その結果、UNGCへの参加のインパクトは中国、韓国、日本の順に強かった点が明らかになった。ただし、これは中国企業がUNGC原則を日本企業よりも熱心に実施していることを必ずしも意味せず、日本企業がUNGCへの参加のインパクトを低く捉えるのは参加前に十分な準備を行っているためであると論じた。UNGCの参加企業に対する調査に基づく実証研究は世界的にも稀であり、その意味で本研究は意義深いものと考える。 理論的研究については、なぜUNGCが発足以来の10年間で参加団体を約50から8,000以上へと増やすことができたのかという問いを設定し、その一因として国連グローバル・コンパクト事務所をはじめとする「制度起業家」の正統化戦略を挙げた。とくに、既存研究に基づいて正統性の類型を示し、正統性を高める戦略について理論的な検討を行った。本研究は正統性を主体や制度の静態的属性というよりも動態的過程と捉え、制度起業家が自らの推進する制度構築において正統化をいかに進め、それを制度構築にいかにつなげているかという観点を提示している点で、既存研究に新たな道を拓くものである。
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