本研究の目的は、国連グローバル・コンパクトの全貌を実証的・理論的に解明することにある。国連と企業(および他の事業体)の間のパートナーシップであるグローバル・コンパクトは、グローバル・ガバナンスにおける実験的な取組(グローバル公共政策ネットワーク、グローバル・パブリック・プライベート・パートナーシップ)として注目されている。 より詳しくは、本研究の目的は、(1)実証的には、一次文献(主にグローバル・コンパクトのウェブサイトに掲載された資料)や二次文献(企業の社会的責任の動向などに関する書籍)だけでなく主要な関係者へのインタビューにも基づきグローバル・コンパクトの実態を解明する点、(2)理論的には、国際政治学(グローバル・ガバナンス論)を中心としつつも学際的なアプローチに基づいてグローバル・コンパクトの意義を明らかにする点、にある。 (1) の実証面に関しては、(1)法的強制力を持たず学習を中心としたアプローチを採用しているグローバル・コンパクトが参加企業や企業の社会的責任の領域にいかなる影響を与えているか(あるいは、そもそも与えうるか)、(2)グローバル・コンパクトはいかにしてその正統性を高め、企業や様々なステークホルダーに受容されてきたか、という点が検討課題である。 (2) に関しては、国際政治学だけでなく、(国際)法学、社会学、経営学などの学問領域における知見を総合して、(1)国際制度(グローバル・ガバナンスのネットワーク)の形成と発展における制度起業家(institutional entrepreneurship)の役割と戦略、(2)マルチステークホルダー型の制度・ネットワークが今日の世界において有する意義や可能性と課題、を明らかにすることを目指す。
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