本研究の目的として掲げた『意思決定主体の経験に基づく社会認識の形成』を促進すべく、当該年度においてはシミュレーション・実証分析を通じて研究を進めた。また、次年度に向けた理論研究の準備を行った。 シミュレーションでは、(経験からの社会認識の形成を考察する)帰納的ゲーム理論に即し、主体の記憶能力として長期記憶と短期記憶の二種類を導入した。これは、全ての経験が主体に認識されるわけではなく、認識形成には経験の一部が重要な要素になることを具現化している。ここでは、ゲーム理論およびその認識研究の問題点を言及した上で、経験の頻度・学習時間と主体が直面する社会構造の認識との関係について論じた。 実証分析においては、家計経済研究所の日本の家計パネルデータを用いて、出産前後において夫婦間の家計内財配分がどのように変化するかについて言及し、ミクロ経済理論モデルとの整合性について論じた。出産前後の家庭内財配分の変化は、女性の可処分所得の減少を招く日本社会において、特に負の影響を与えることが示された。その傾向は第一子誕生のときがもっとも顕著であることが明らかになった。 また、次年度に向けた理論的研究も行った。特に社会的コミュニケーション・社会的学習として「群衆行動」に関する理論的研究の準備を行った。次年度はこれを踏まえて、社会構造の認識とコミュニケーションとの関係を追究していく。また、この枠組みを資産価格理論に応用し、認識・コミュニケーション・学習モデルを金融市場に応用することで、その政策的含意についても考察する。
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