研究概要 |
本プロジェクトでは、意思決定主体の社会構造の認識とその経済的帰結との関係について分析した。まず、主体の認識能力をその記憶能力として定式化し、シミュレーション分析を行った。その結果、(1)有限時間で行われる社会構造全体の認識は困難で、部分的にしか認識できない(2)一方で、構造の特定部分に注意を払うことで、効率的な認識形成を行えることを示した(Akiyama, et.al.)。また、ゲーム的状況では(1)記憶能力の低いことが、必ずしも獲得利得を低くすることを意味せず(2)むしろ主体の記憶能力の多様性が個々の利得を低くする要因となることを示した(Hanaki, et.al.)。 次にコミュニケーションの帰結として共通認識に到達した状況を考え、非対称情報下の市場取引問題を考察した。これは、社会構造の認識とその経済的帰結の関係を、市場取引問題を通じて明らかにするためである。結果として、先行研究で考察された否定的内省公理(negative introspection)を満たさなくとも、私的情報を得た時の期待効用を各主体が認識していることが共通認識ならば、無投機定理(no trade theorem)が成立することを示した(Matsuhisa and Ishikawa)。 本プロジェクトでは、シミュレーション及び理論的分析を通じて、社会的認識の観点から意思決定問題を考察した。その結果、既存研究では研究されてこなかった社会構造の認識の難しさ及び、経済的帰結への影響を明らかにしたといえる。
|