当該年度においては、第一に、"Optimal monetary policy with imperfect unemployment insurance"の改訂を行い、国際的な査読誌に投稿するとともに、その成果を経済産業研究所(RIETI)のディスカッションペーパーとして発表した。続いて、"Optimal monetary policy when asset markets are incomplete"を、CEPRとRIETIが共催した国際コンファレンスにおいて発表した。これら二つの論文は、金融市場が完備でないモデルで、最適な金融政策を考察するという共通のテーマを扱っている。近年、ニューケインジアンモデルと呼ばれる、価格硬直性をもつ一般均衡モデルが、金融政策の分析に用いられる標準的なフレームワークとして活発に研究されているが、そこでの主要な結論は、伝統的に金融政策が直面するとされてきたインフレと生産の間のトレードオフは、実は非常に簡単で、金融政策はインフレ率をゼロに保つことで、(少なくとも近似的には)社会的厚生を最大にできるというものである。したがって、インフレ率がゼロに保たれている限りにおいて、生産がどれだけ変動しようとも、金融政策は反応すべきでないということになる。この結論に対してありうる批判の一つは、それが得られたモデルが、金融市場の完備性を仮定していることである。よく知られているように、完備市場モデルにおいては、そもそも景気循環による生産の変動が社会的厚生にもたらす損失が無視し得るほどに小さいからである。上述の二つの論文では、それぞれ異なる方法で非完備市場をニューケインジアンモデルに導入し、最適な金融政策について分析を行った。その結果、インフレ率をゼロに保つことで社会的厚生が近似的に達成されるという、標準的なモデルで得られた結論は、市場の非完備性のもとでも成り立つことが示された。
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