1.経済理論で直面する動的計画問題の多くは高次元で連続的な空間上のモデルであり、この様な問題に反復解法(value iteration)を用いると、膨大な計算処理が必要である。それゆえ現在ほとんどの研究者はEuler方程式を線形近似する手法により動的計画問題を取り扱っている。しかし、線形化により、近似関数は計測困難な数値誤差を含んでしまう。一方、近年、人工知能の分野において高次元で連続的な空間上の確率的動的計画問題においても適用可能な反復解法についての研究が数多く行われるようになっている。これらの研究の基礎となっているものは、高次元空間にも適用可能で、かつ最大値ノルムの意味で非拡張的な近似関数である。そのため、19年度は研究の第一段階として非拡張近似関数を用いた確率的動的計画問題について研究し、これらの新手法を状態・制御変数が連続的であるDSGEモデルの動的計画問題に適応してきた。この研究の成果はComputational Economicsで出版された。 2.DSGEモデルの均衡計算のアルゴリズムに関して研究を行った。本研究では、近年提案された均衡計算方法であるLook Ahead Estimatorの性質を求めた。この計算方法はシミュレーションを基礎とした条件付モンテカルロ法とRao-Blackwell化の考えに基づいた強力な新手法であり、高次元システムであっても均衡を求めることが可能になる。さらにこの手法により、近似解の数値誤差の大きさを測ることを可能にする誤差限界(error bound)が得られる。今年度の研究によって、DSGEモデルの定常均衡の計算に有用な手法であることを示した。この研究の成果はEconometricaで出版された。
|