企業の合併・買収が社会全体の経済厚生に及ぼす効果を検討することは、競争政策を考察する上で重要だ。合併・買収に参加する企業が利益を上げても、社会全体に不利益をもたらすような場合には、競争政策当局は、そのような合併・買収を阻止しなければならないからだ。実際に、社会的余剰によって社会全体の経済厚生を測るとき、合併・買収が参加企業に利益をもたらしても、社会的余剰を減少させる場合がある。 以上を踏まえて、閉鎖経済での企業の合併・買収モデルを開放経済に拡張した。開放経済での最も基本的な設定として、輸入競争産業のモデルを構築した。具体的には、複数の国内企業と外国企業が国内市場で寡占競争を展開している状況を考え、国内企業が合併後にシナジーによる費用削減を達成できると想定した。分析の結果、国内企業どうしの合併の効果が、シナジーによる費用削減の大きさに依存して決まることが示された。シナジー効果が大きい場合、国内合併が国内企業や国内全体の余剰を高めるが、外国企業には不利益を与えることがわかった。 この結果は、競争政策の国際摩擦の可能性を示唆する点で重要だ。国内競争当局が国内合併を認めても、それが外国企業に不利益を及ぼすため、外国の競争当局はそれを承認しない可能性があるからだ。 また、貿易障壁の低下により、国内企業の合併の誘因が高まることを示した。これは近年の合併・買収の増加の一因が貿易自由化等による国際競争の激化にあることを示唆する意味で重要だ。 今後の計画として、外国企業による国内企業の買収誘因とその経済厚生効果の分析、技術開発を導入した開放経済での合併・買収モデルの構築と分析を行う。
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