本年度は、家計か多期間生存する世代重複モデルを構築し、少子高齢化が進行する日本経済の移行過程を計算した。我々のモデルは、以下の特徴を持っている。1.国立社会保障・人口問題研究所が推計した「将来人口推計」に基づいて、日本における少子高齢化プロセスを精緻にモデル化している。2.家計は無数に存在しており、固有の所得リスクに直面している経済環境の下で、最適な意思決定を行っている。そのため、世代間だけでなく世代内の異質性も考慮している。また、弾力的な労働供給を許容している。3.移行過程のあらゆる期において、財、資本及び労働市場がバランスする一般均衡を考えている。以上の特徴を持つモデルを数値計算を用いて近似的に解き、少子高齢化が進む2007〜2055年の日本経済において、GDP、資本、労働及び要素価格(利子率及び賃金)がどのように推移していくかを分析した。 今後、50年間に渡って資本の進化が進み、利子率を1.5%程度、低下させることが明らかになった。また、資産格差は若干ではあるが、縮小する方向に向かう。少子高齢化は社会保障制度の維持可能性に深刻な影響を与えるが、我々の研究結果からは、所得代替率を低下させる政策が世代間公平性の観点から望ましい事が明らかになった。また、財源選択として消費税による拠出が必ずしも厚生を改善しないこも明らかになった。この点については、来年度、更なる研究が必要になると思われる。 また、上記のモデルがどの程度、日本経済をうまく説明できているかを確認するために、実際のデータとの比較を行った。ターゲットとなる日本経済の経済格差を測るために、全国消費実態調査に基づいて資産格差の指標(ジニ係数、資産5分位他)を作成したところ、資産上位1%を除いて、資産格差をうまく説明できている。
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