昨年度に引き続き、異質な家計が多期間生存する世代重複モデルを用いて、日本のマクロ経済分析を行った。主な研究結果は、以下の2点である。 1、社会保障制度の財源として、消費税および資本所得税がマクロ経済及び経済格差にどのような影響を与えるかを分析したところ、若年層の中では高所得の家計も低所得家計も、消費税及び資本所得税により社会厚生が改善することが明らかになった。また、簡易的に投票制度をモデル化し、現行維持と社会保障制度改革のどちらが政治的に支持されるかを分析した結果、若年層及び中年期の低資産層では改革案が支持されるものの、マクロ経済全体としては、現行維持への支持がきわめて強いことが明らかとなった。そのため、社会保障制度改革を考える際には、投票や政治過程を明示的に考慮した上で、実行可能なプランを提案する必要がある。 2、多期間の世代重複モデルを用いて再分配政策を含めた様々なマクロ経済政策を考える上で、数値モデルが日本経済を本当に適切に複製しているかという問題は重要である。そこで、実際に実現したマクロ経済のパラメターをインプットして、モデルから生成された経済格差の各指標(消費格差・所得格差)を観察された80年代、90年代のデータと比較した。その結果、世代重複モデルはGDPや貯蓄率といったマクロ経済指標に加え、所得格差のような2次のモーメントもうまく説明できることを明らかにした。90年代の日本の所得格差の時系列的推移は、TFP及び時短によってかなりの程度、説明されることを示した。
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