本研究(国際的視点からのピグー研究)の第4年目にあたる平成22年度の成果は、およそ以下の3点に整理される。 第1に、ピグー厚生経済学の初めての体系書である『富と厚生』(1912年)に主に依拠しながら、非イギリス経済学者(ヨーロッパ大陸各国やアメリカの経済学者)がピグーに与えた影響を精査した。その結果、課税論・社会保障論・独占論・貨幣論などの非常に多くの分野において、そのような影響が顕著に存在することが具体的に判明した。これは、従来のピグー研究ではまったく看過されてきた点である。 第2に、貨幣論に関するピグーの有名な論文「法貨の交換価値」(1923年)の邦訳をおこなった。その訳者解題で述べたように、同論文は、ピグーのマクロ経済理論を研究するさいの基本文献であり、またアメリカ人経済学者であるI.フィッシャーからの強い影響を明確かつ具体的に示しているが、残念ながらこれまで邦訳がなかった。 第3に、上述の『富と厚生』(原書本文488頁)の全訳をおこなった。すでに平成22年秋に研究成果公開促進費(科研費)を申請済みであり、同書の出版百周年に合わせ、その邦訳書を2012年に名古屋大学出版会から公刊する予定である。この邦訳および訳者解題によって、ピグー厚生経済学が多くの非イギリス人経済学者の影響を受けながら(また諸外国の先駆的な経済政策・社会政策などを参考にしながら)形成されたという事実は、明確かつ具体的に論証されることになる。
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