研究概要 |
本研究は, 株式, 為替あるいは金利といった現実の高頻度金融データを用い, 日本の金融市場におけるミクロ構造の体系的研究を行うことを目的としている. 平20年度は基本的に, 昨年度の研究を引き継ぐ形で行われた. 特に本年は, ジャンプの数理統計理論的な側面に焦点を当てるため, 研究協力者として増田弘毅(九州大学数理学府)氏も分析に加わっていただいた. 具体的には,「金融資産の収益率過程に含まれる不連続な部分(ジャンプ)を検出」に関する分析を行った. この分析を行うために用いられたデータ系列は, 東京証券取引所1部上場の500銘柄,TOPIX株価指数, そして円ドル為替レートの高頻度収益率系列である. 分析手法としては, 日内高頻度データに基づいた実現ボラティリティ(realized volatility, RV)の拡張であるrealized multipower variation(MPV)を用いたLee and Mykland(2008)統計量により価格変化における飛躍(ジャンプ)を検出する. 分析結果としては, まずジャンプの頻度に関しては, ジャンプ確率が非常に低い銘柄が存在するが, 反面, 頻繁にジャンプが発生する銘柄も存在し, ジャンプの大きさも平均で正値の銘柄, 負値の銘柄が両方見られた. さらに,米国同時多発テロ事件,米連邦準備制度理事会(FOMC)の公開市場操作, 及び日銀による外国為替平衡操作(FXIO)を取り上げ, 市場への情報流入(ニュース)がジャンプにどのような影響を与えるかを分析した. ニュースが発表された日のジャンプの発生確率では, 有意にニュースが発表された日の方が高かった. しかし, ジャンプの大きさはFOMCではニュースの有無に関係なく, FXIOでは有意に差があるという結果となった.
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