研究概要 |
本研究は,株式,為替あるいは金利といった現実の高頻度金融データを用い,日本の金融市場におけるミクロ構造の体系的研究を行うことを目的としている.平成22年度は昨年度に引き続き、多変量の日内高頻度データに対する分析を中心に研究を行った.特に高頻度データを用いることによって生じる市場のミクロ構造ノイズ(Market microstructure noise)を実現共分散行列(realized covariance matrix)から取り除くより簡便かつ効率的な手法の開発を研究の目標とした.このミクロ構造ノイズを取り除く先行研究としては,交差積和行列を固有値分解しランダム行列の最大固有値よりも小さな固有値に対応する成分をノイズとみなし,それを除去する手法がある.しかし,既存の手法では,ランダム行列の最大固有値の漸近性を考慮せず,その収束値のみを用いるため,本質的なボラティリティを誤ってノイズとみなす危険性が定量的に評価されない可能性がある.そこで,ランダム行列の最大固有値は漸近的にTracy-Widom分布に従う性質を用い,共ボラティリティのノイズに対する統計的仮説検定を提案した.この提案手法を用いることにより,ノイズに影響されないより安定した実現共分散行列を推定することができた.昨年度の研究では実証分析のみ行ったが,平成22年度は人工的に生成した高頻度収益率データから大規模な共分散行列をモンテカルロ・シミュレーションにより推定し,提案手法の理論的整合性を検証した.
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