研究概要 |
本研究は、ネットワークゲーム理論分析の成果をふまえ、R & Dネットワークにおける戦略的提携関係に注目し、企業の連鎖的な研究開発提携行動に関して実証研究を行うものである。本年度の研究ではNBERの特許引用データベースおよび米国特許商標局PatentBIBデータベースから特許記載の研究者をTrajetenberg, et.alが開発したComputer Matching Procedure法により識別し、各発明家の企業履歴を追跡することで、研究者の在籍企業に関する詳細な個票データを構築した。そのデータセットをもとにして、研究者の共著者ネットワークが研究者の転職行動に与える影響について詳細な実証分析をおこなっている。そのために、まず、研究者の転職行動をモデル化するためにJovanovicおよびSimon and WarnerによるJob Search and Matching Modelを構築し、特許発明家の転職行動について定性的な理論分析を行った。さらに理論分析で使用したJob Search and Matching Modelの構造パラメータを前述の個票データを使用して推定した。推定結果から共同研究者が転職する企業にいる場合には、発明家の転職企業に対するJob Matchが改善し、発明家が転職後に企業に在籍する期間が、そうでない場合に比較して有意に延長されることが判明した。さらに、転職後の特許の生産性に分析するために、転職後の特許出願数を非説明変数にするPoisson回帰分析を行うことで、共同研究ネットワークを使った転職と使わなかった転職では、前者は後者に比べて有意に特許発明についての年生産性が高くなることが発見されている。以上の分析結果から、企業のR&D活動に関する特許の生産性を高めるためには共同研究者のネットワークを介した知識の移転が大きな役割を果たしていることが明らかにされている。
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