本研究は、わが国の労働市場の動向、特に人々の就業行動(労働供給)や企業側の採用行動(労働需要)、さらにその結果として観察される価格(賃金)の変動に焦点をあて、時代や世代間を通じてそれらに変化が観察されるかを明らかにすることを目的としたものである。最終年度に当たる21年度は、前年度までの「社会生活基本調査」(総務省)の個票データ(1976~2006年)を用いた分析をさらに発展させ、日本人女性の家計生産時間が長期時系列でみて趨勢的に低下しており、結果として余暇時間が顕著に増加していることなどを定量的に示した。本研究は、これまで統計的に把握が難しいとされてきた余暇時間を厳密に測定することにより、長時間労働問題やワークライフバランス政策への含意を導出するうえでの判断材料となる基礎的・定量的な事実を提供したものである。さらに、これまでの分析結果を発展させ、労働時間を規定する諸制度(法定労働時間、時間外規制等)が労働時間に及ぼす影響について分析し、政策含意を導出することを目的に、近年開発が進んでいる政策評価分析(policy evaluation analysis)の手法を用いて、時間外規制の適用除外が人々の労働時間の選択に及ぼす影響を分析した。分析の結果、時間外規制が適用除外されている労働者は規制が適用されている労働者に比べて一部の産業・職種によっては長時間労働になる傾向が観察されたものの、時間給に換算した場合には総じて規制の有無による差がないこと等を報告した。
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