研究概要 |
本研究は,海上輸送産業における「定期船市場」および「不定期船市場」の双方を対象として市場構造と価格形成の関係についての検討を行うものである.第一に,寡占的とされる「定期船市場」では海運同盟やグローバス・アライアンスなどのような競争抑制的な企業間の協調行動がある一方で,米国の改正海運法の施行などのような競争促進政策も導入されている.そこで,これらの点が価格形成にどのような影響をあたえたかという問題を取り上げる.第二に,完全競争的とされる「不定期船市場」において,船主や用船者の戦略的な行動が結果としてスポットおよび先物/先渡しの価格形成にどのような影響を与えうるかという問題に焦点を当てる. 第一の問題については,資本資産評価モデル(CAPM)のβと市場の競争的な環境との関係をモデルの上で表現したうえで,わが国の定期船市場を対象に時変的βを推定しその観察を行った.その結果,定期船市場が競争的な環境になるほどβの値が高くなる可能性が示唆された.この成果は2008年3月に行われた国際学会にて報告され,あわせて,この内容の一部は関連する海外査読誌にて公表される(2009年に公刊予定). 第二の問題については,手塚・石坂(2006)およびTezuka, Ishizaka and Ishii (2006)によるスポット運賃と先物価格の形成モデルを援用して先物カーブを作成した.当該分野の先行研究では,海運の先物価格がスポット運賃(価格)の期待値と等しくなるという経験的な仮説(アンバイアス仮説ないしは期待仮説と呼ばれる)を基にした実証分析が中心である.それに対して,本研究では先物カーブを描くことによって,各期においてプレミアムが存在することを示し,上記の仮説が必ずしも成立しえないことを示した.
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