研究目的 垂直結合が外部性を取り除き効率性を向上させるとする競争促進論は、垂直結合による消費者価格の引き下げ、生産量の上昇、そして消費者余剰の上昇を予測するのに対し、垂直結合が競争者費用の引き上げを念頭に置いた垂直的市場閉鎖の契機となりえるとする競争阻害論は消費者価格の引き上げ、生産量の下落、そして消費者余剰の下落を予測している。これらの相反する理論は共存可能であるため、二つのどちらの影響が大きいかを検証するには実証分析が必要となってくる。本研究では、米国ケーブルテレビ産業のデータを用い、この問題に取り組んだ。 研究方法 推計方法としては、近年急速に発展してきたノンパラメトリック手法の推計方法を用い、関数型の仮定に頼り過ぎない分析を目指した。また、ケーブルテレビ産業の代表的で最も規模の大きいものの一つであったTime Warner(川下企業)とTurner Broadcasting(川上企業)の垂直結合に焦点をあてた。 研究成果 現在まで下記のような興味深い結果が出ている。1.垂直結合により、卸売価格も最終価格も下がったことを示唆する結果がみられた。つまり、垂直企業間での効率性改善があったと考えられる。2.垂直結合によりもっとも利を得たのはTurner Broadcastingのチャンネルのひとつであるが、そのチャンネルはTurner BroadcastingがTime Warnerと結合する前はTime Warnerによって市場閉鎖されていた可能性が高い。3.この2企業の垂直結合により市場閉鎖されたチャンネルはどの川下企業とも結合していない企業の商品ばかりであった。上記の研究は査読付雑誌であるlnternational Journal of lndustrial Organizationに掲載が決定している。
|