研究概要 |
今年度は, 排出権取引と排出税政策に焦点を当てつつ汚染削減投資を分析した。まず, 排出権取引制度で上流取引と下流取引で議論が賛否両論あるが, 上流制度の理論的特徴をモデル化して経済分析を行った。そのためにまず, 石油元売企業1社とn個の石油消費企業から構成される上流型排出権取引制度の理論モデルを構築した。その結果, 規制当局の定める排出権初期配分総量と石油抑制投資水準, 石油消費原単位, 生産量などとの関係を明らかにした。特に, 下流型取引よりも上流型取引の方が石油抑制投資に対する優位性を持つ場合もあることを示した。また, 国際的排出権市場での排出権価格が高いほど社会的に最適な石油抑制投資水準を達成できる可能性が高いことも明らかにした。こうした分析は, 石油産業に対する競争政策と同時に排出権制度の理論的基礎を固めることに寄与することになる。 さらに, 規制当局が, クールノー競争が行われている複占市場に対して排出税政策を実施する際に, 排出税率のコミットメント可能性の有無が環境投資水準にどのような影響を与えるのか, またそれらが社会的最善の水準に達するか否かの理論的考察を行った。その結果, 排出税率をコミットする際の環境投資水準は協力投資であっても非協力投資であっても社会的最善の水準には達することはない。しかしながら, 排出税率がコミットされない場合には, 協力投資の場合に限り社会的最善の水準を超える場合があることが判明した。 以上, 一連の成果は査読付き研究雑誌に投稿中である。
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