平成20年度では、平成19年度に行った基本的な分析を更に発展させ、論文としてまとめた。具体的には、企業の行うM&A活動やR&D行動が産業内において、伝染効果をもたらすのか、さらに、このような伝染効果を受ける企業はどのような特徴を持った企業なのか、投資家からの評価による株価反応をみることにより、検証している。 ここで、M&Aにおける伝染効果とは、M&Aが行われることにより、規模の経済、範囲の経済といったシナジー効果が働き、企業パフォーマンスの改善がみられるというM&Aのプラス効果が働くなら、同業他社企業でも、M&Aが行われることにより、同様の効果が働くのではないかという潜在性を期待した効果である。また、R&D活動における伝染効果とは、ある企業がR&D活動に成功すると、同業他社企業が、何らかの形で、技術面においてプラス効果を受けるような外部性効果をいう。 主な分析結果は以下の通りである。 分析結果によると、M&A活動においては、伝染効果仮説と企業規模との間には2次曲線の関係がみられた。つまり、規模の小さい企業では負の関係が、規模の大きい企業では正の関係がみられることが明らかになった。これは、規模の小さい企業では、買収される可能性が高い一方で、規模の大きい企業では買収する可能性が高いことを示唆している。一方、R&D活動においては、伝染効果仮説と企業規模との間には線形の関係がみられた。 さらに、研究開発投資集約度が高い企業では、外部からの新しい技術知識を吸収する潜在能力が高いことから、次のM&A実施企業になる可能性が高いため、伝染効果をより強く受けていることが明らかになった。この結果から、M&AとR&D活動との間には補完性がみられるといえる。 なお、ここで得られたインプリケーションは、今後のわが国のM&Aに関する法律面での整備を進めていくうえで、また、医薬品産業における産業政策を考えていくうえでも、数量分析に裏付けられた基礎資料となる社会的、政策的意義を持っている。
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