研究概要 |
医療経済学会の学会誌である『医療経済研究』に採択された単著論文「入院医療サービスの垂直的公平性と負担金の不平等度」では、近畿地方の公立病院を分析対象とし、医療サービスの分配に関して以下の3点を明らかにした。(1) 健康状態が悪い地域への繰入れを重視すると、入院患者数(1日平均)に対して患者あたり負担金が垂直的に不公平となる。(2) 平成17年度に医師あたり外来患者数の不平等が大きくなり、患者あたり負担金の不平等の要因が変化した。(3) 入院患者の地域間移動を考慮しなければ、医師あたり外来患者数の病院間格差を過小に評価し、患者あたり負担金の不平等度を過大に評価する。 The Australian Centre for Economic Research on Health at The University of QueenslandのLuke Connelly教授に対するヒアリングを通して、「医療サービスの公平性」(Equity in Health Care Deliveryなど)に関する研究の潮流が、近年大きく変わったことを知った。最大の変化は、医療サービスの公平性に関して国家間の比較を行っていない論文がLeading Journal(A*, Aレベルの専門誌)に採択される可能性が低くなったことである。他方、医師不足の解消を考察する際に有用な「地域性の評価」について、University of Southern DenmarkのDorte Gyrd-Hansen教授から助言を得ることができた。しかしながら、日本のHealth Economistは、その分析に必要な個票データにアクセスできない。それゆえ、HealthEconomicsをリードしている国々で標準のアプローチを用いて、日本における医師の偏在を考察することは難しい。経済学者個人の努力では埋めることができない研究環境の差が、日本におけるHealth Economicsの発展を妨げていると思われる。
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