この研究は、過去の転職者の転職異動データにもとづき、多くのカテゴリーに分けられている職業を「地図化」し、職業間の関係(似ている職業・転職しやすい職業・経験を生かせる職業)を可視化して、直感的に理解しやすくするとともに、職業間移動および職業別労働市場の研究を行うものである。具体的には、転職者の従前および現在の職業(職業中分類レベル)の移動者数データに多次元尺度法(MDS)を適用し、結果を地理情報システムを用いて、職業を「転職地図」として表示する。この地図は、職業間の関係のみならず、空間統計学の手法によって推計された、職業別求人・求職率や賃金など各種労働統計が表示されうる。 上述のような転職異動データは、我が国には存在しないため、英国の労働力調査(LFS)の2001-05年の結果をコンパイルして使った。結果、職業小分類81職種に関する「転職地図」を作成した。MDSを適用したところ、X軸に職業のスキル程度、Y軸に職業のスキル内容が抽出された。このため、この「転職地図」上での、右方向への移動は同一内容の職業でのより高度な職種への移動であり、上下の移動は異なる内容の職業への移動であることがわかった。このように、地図上の職業の位置は職業の質を示唆しているため、職業間移動をこの地図上で検討することは、むしろ地理的移動を通常の地図上で検討する場合よりも有意義である。
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