研究概要 |
本研究の目的は,日本(北九州地域と中南信地域),韓国(始華産業団地),中国(中関村科技園区)における産業集積(産業クラスター)に属している様々な経済主体間の相互作用のメカニズムを解明し,地域発展のための制度設計に繋がる政策提言を行うことである。情報通信技術(ICT)を核に,イノベーションに基づく生産・サービス活動を展開している地場企業を調査対象として,各企業の企業間連携や産学官連携の実態を調査し,産業集積におけるネットワークの役割を探った。 平成21年は,19~20年度の調査を踏まえて,日韓中の各地域のアンケートデータの集計・分析を行い,論文を作成し,国際開発学会,アジア経済研究所の研究会で報告した。韓国の論文は,アジア経済研究所のモノグラフ(22年度に刊行予定)に収録される予定である。分析結果から,企業年齢の増加にともなう企業規模の拡大の過程で,研究開発従事者も増えているが,相対的にはroutine operationのための従業者数の方が増えており,韓国国内の連携(ネットワーク)による知識外部性の獲得の効果として理解できる。さらに,21年は,北九州地域で直接訪問に基づく追加的な聞き取り調査を実施し,パネルデータを構築した。19年に実施したアンケート調査の集計結果と同様,北九州地域におけるICT関連の製造業・サービス業は,ともにグループ企業内の取り引きが顕著であり,また,その空間範囲も国内に留まっていた。一連の研究成果は,研究対象地域において地場企業の情報の伝達経路やその内容・空間的範囲に踏み込んで,知識外部性の役割を明らかにしていくための記述の蓄積としての貢献である。
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