研究概要 |
平成20年度については, 前年度に引き続き, 海外直接投資による技術移転と知的財産保護政策に関する理論モデルを分析した。具体的には先進国企業による海外直接投資により生産拠点が途上国に移転される状況をモデル化し, 直接投資の進展が先進国および途上国の経済発展に寄与するかどうかを分析した。その際にLai(1998)やBranstetter et al.(2005)などの先行研究とは異なり, 直接投資を成功させ, 技術移転の行う場合に費用がかかるというより現実的な状況を想定した。モデル分析の結果, 途上国の知的財産保護制度の強化によって, 先進国企業によるFDIが促進されることを示した。一方で技術移転を行う際に,多額の費用がかかるような場合については途上国の知的財産保護政策の強化がFDIを促進する一方で2国の経済成長を阻害することを示した。これらの帰結は途上国における労働者の教育水準, 社会的および物的インフラストラクチャーなどの社会環境が, FDIを通じた世界全体の経済成長にとって大きな意味を持つことを示唆しており, 重要な結果である。これらの研究成果については昨年6月の日本応用経済学会春季大会および12月の九州経済学会で報告し, 有益なコメントを受けた。現在, 論文については査読付きジャーナルに投稿している。また研究成果の一部を『金沢大学経済論集』に掲載した。 また実証研究については, 九州大学で行われた研究会に複数回参加し, 技術移転と経済成長に関する基本文献について収集し, 研究動向について調査した。次年度にはモデル分析の結果について実証分析を行い, 研究成果をまとめたい。またには京都大学経済研究所主催の国際コンファレンスに参加するなどし, 情報収集や研究上の交流を行った。
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