研究概要 |
本年度はまず前年度に執筆した論文"Intellectual Property Rights and Foreign Direct Investment in an Endogenous Growth Model"を日本応用経済学会『応用経済学研究』に投稿し,レフェリーからのコメントを元に大幅な改定を行った。本論文では先進国企業が途上国にFDIを行い,技術移転するための費用を考慮した際に,途上国の知的財産保護水準の強化が先進国の研究開発や技術移転にどのような効果をもたらすかを分析した。その結果,途上国における知的財産保護政策の強化は,技術移転のための費用が大きい場合においても,FDIやそれに伴う技術移転を促進することを明らかにした。その一方で技術移転費用が大きい場合には途上国における知的財産保護水準の強化は,先進国における研究開発を減退させることを明らかにした。この帰結は(1)知的財産保護政策と経済成長を取り扱った他の研究結果と異なること(2)途上国における社会的インフラストラクチャーが先進国の研究開発にも波及的に影響を与えることなどの点から見て重要である。また論文の改訂作業において,定常状態の存在性,一意性,鞍点安定性等についての条件を導出し,モデルの数理的構造をより明確にした。改定を経て論文は『応用経済学研究』第3巻に掲載され,2009年度日本応用経済学会奨励賞を授与された。 また知的財産保護の国際的スキームに関しては,論文「開放経済における知的財産保護水準の戦略的決定と経済成長」について改定を行い,山形大学人文学部の野田英雄准教授にいくつかの指摘を受けた。この論文については修正の後22年度に書籍として出版予定である。 ただ予定では上記の理論的研究を受けて実証的研究を行うことになっていたが,現時点は十分な成果を出すに至っていない。この点については今後も研究を継続する予定である。
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