研究概要 |
教育獲得と移住機会の関係の分析として, Katz and Rapoport(2005 JPopE)のモデルに移住に伴い固定的な費用の発生を考慮したモデルを考察した。Katz and Rapoport(2005)の主要な結論として, 自国での労働所得に対する不確実性はより多くの個人の人的資本蓄積を導くことが示されている。この結論は自国において低所得に直面した時に外国での就労機会を求めることにより, 一定水準の所得が保証されているような状況により導かれる。このような状況下においては不確実性の増大はより高所得を得られる点でのみ個人に影響する。したがって不確実性の拡大はより多くの人が教育を獲得するという状況を導き出す。しかしこれに移住に伴い発生する固定費用を導入した場合, その結論は大きく変化する可能性がある。Katz and Rapoport(2005)においては教育を受けかつ低所得に直面した個人はすべて海外に移住すると想定されていたが, 固定費用を導入することにより, 教育を受け低所得に直面しても移住を選択しないケースも生じうる。本研究の対象は自国内にどれだけ教育を受けた個人が残り得るかという点であるため, 教育を受け低所得に直面しても移住を選択しないケースに直面する個人の行動の分析がその中心となる。本研究において以上の点に着目した結果, 教育を受け低所得に直面した個人が移住を選択しない状況が生じる経済下では, 所得の不確実性の拡大が個人の教育獲得には寄与しないことが示された。この結論の重要な含意としては経済において所得不確実性の拡大が避けられない状況下では移住を選択するための費用を減少させることが, 経済における人的資本の蓄積に寄与しうるという点があげられる。
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