研究概要 |
多くの国において労働者の能力は教育機関に関する証明書と共にあって賃金と結びつく側面を有している.また教育により獲得されるものとして人的資本および能力に関するシグナルがあるが,現実の経済においてはこの両面が重視される.これらの点に着目し,個人および企業にとって不確実な側面を保有する2タイプの能力(High-skilledとLow-skilled)の個人が存在する経済を考える.しかしこの能力は教育を通じ次第に明らかとなる.このような状況下においては,High-skilledにより過少投資とLow-skilledによる過剰投資が発生することが予想される.これらの最適水準からの乖離は能力について不確実性があることへのコストと考えられる.この不確実性に伴うコストを回避するための政策についての分析を行った.これらの分析を通じて,人的資本および能力に関するシグナルの獲得のために投資を行う状況下における政府あるいは教育制度の果たす役割が明らかとなった.つまりシグナルを獲得するためには,制度としての保証が必要となる.したがって不確実性や外部性による過少投資を回避するためには,シグナルとして効力を発する教育期間を制度として設定するだけで良い.またより長い教育期間を設定することにより,Low-skilledの過剰投資を回避することも可能となる.もちろん公的教育の重要性が否定されるわけではないが,人的資本およびシグナルをどのように獲得するかという制度面の重要性が本研究により明らかとなった.
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