本研究は、情報科学において発展したオブジェクト指向分析とマルチエージェント・シミュレーションの成果を応用して、ミクロ的な基礎付けを持つマクロ経済シミュレーション手法となるエージェンベース・シミユレーションの開発を目的としている。本年度は、オブジェクト指向分析により、UMLにより経済モデルめ記述を行なった。これにより、モデル内に多数の異質なエージェントが存在し、各エージェントが学習を行い行動基準を変化させ、さらにエージェント間に相互作用を認める複雑なモデルを記述することが可能となった。また、エージェントベース・シミュレーションに、改善された数値確率分析法の適用を行なった。数値確率分布法とは、分布が未知の場合であっても、変数間に任意の関係がある場合であっても、小標本からでも分布を推定し、データ間の関係を保持した乱数生成や推定や検定を可能とする新しい数値統計計算手法である。これにより、多数の異質なエージェントにデータに基づく初期値を付与することが可能となり、現実の経済に近いシミュレーションが可能となり、また、複雑なモテルであっても、シミュレーション結果の推定や、各種政策の仮説検定が可能となった。 残された課題は、個々の企業や家計の行動や市場を詳しく観察し、より現実に近いモテルを記述することであるが、それには行動経済学による人間行動の研究の更なる発展と、モテル化の対象となる当該分野の研究者との共同研究が必要となる。また、モデルが複雑になるにつれてコンピュータに必要とされる計算が増大するが、より効率的な処理も必要となる。
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