研究概要 |
平成19年度は,研究計画に沿って(1)分析を進める上で必要となるデータ整備,(2)既存研究のサーベイを進めた.ただし,もっとも力を入れたのは,計画段階では軽視していた「住民監視」の多様化を理解し,把握する作業であった. 今年度は,さいたま市桜区区民会議委員として,住民による行政への関与の実態を肌で学び,さいたま市外部行政評価懇話会委員として,さいたま市を外部から評価する経験を重ねることができた.こうした機会を通じて考えさせられたのは,住民による監視機能として必ずしも「選挙」だけが突出した主役ではないのではないか,という点である.市町村合併などで拡大しすぎた行政区の中にあえて非公選の住民たちによる協議機関(住民協議会)を設ける自治体が現れていることや,総務省の進める公会計制度の見直しなどもあり,従来とは,民主主義のありように変化が生じていることを強く考えさせられた. 一般に,地方自治体は,地域間競争(足による投票)にさらされ,選挙という住民評価(手による投票)が課されていることから,効率性を維持せざるを得ないと考えられていたが,理念的な推測を離れて現実に踏み入った瞬間に,自治体を監視するメカニズムが多様化していることを踏まえた研究が必要になったのである.ただし,住民による行政を監視する手段の多様化は,我が国の自治体に必ずしも良い影響を与えているとは限らない.なぜならば,非公選の立場にある主体による「監視」という名の「介入」が強まると,公選された議員の活動が萎縮する(ないしは,特定の非公選の人々の意見に引きずられる)可能性があり,「選挙」の意味が相対的に薄れてしまうような一面をかいま見ることがあるからである. 来年度は,研究課題の1つとして,多様化した住民監視の手段の「相乗効果」と「相殺効果」についても視野に入れつつ,研究計画に遅れがないよう取り組みたい.
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