研究概要 |
公共政策は個人や企業等の経済主体の行動にしばしば影響し, 「厚生損失」を発生させるといわれる. 「公的資金の限界費用(MCPF : marginal cost of public funds)」とは, このような税収が1単位増加することによる実効費用の追加的な変化をさす. 本研究では, 大規模な個票データを用いて賃金弾力性について実証分析を行い, 日本のMCPFの推計を行う. 20年度は, 一橋大学経済研究所附属社会科学統計情報研究センターが行っている「学術研究のための政府統計ミクロデータの試行的提供」により, 「就業構造基本調査」の個票を入手し, 労働供給行動がどれほど賃金率に反応しているかについての実証分析を行い, MCPFを推計した. 労働供給行動の分析には労働供給関数や効用関数についてなんらかの仮定を置くことが必要になるが, ここではCES型の効用関数を想定した. その結果, 労働供給の非補償弾力性は低い値(0.06〜021)を, 補償弾力性と所得効果についてはともに比較的大きな値を得た. この数値をもとにMCPFの値の平均値として1.1程度の結果を得た. 社会厚生関数の設定をはじめとする社会的な評価方法については検討中であるが, これらの推計値を用いて最適な線形所得税のシミュレーションも試みている. 財政状況が悪化しているところ, どのような税制を構築するかは政策的にも重要な課題であると考えられる. また, 労働供給が時間的制約に直面していることを加味した労働供給行動の計測もあわせてあわせておこないく労働供給の弾力性の推定値としてはそれほど変化しないことを確認した. これらの労働市場の他の特徴や家族構成などを考慮した推計は21年度以降の課題である.
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