近年、日本の企業統治が大きく変わってきている。そのひとつは、企業敵対買収の増加と、それに対応する防衛策導入の動きである。防衛策は導入企業を非生産的な企業買収という脅威から守るという利点があるが、一方では導入企業の経営陣の保身策として乱用されるという落とし穴もある。よって平成20年度の研究目的は、防衛策導入により日本企業の企業統治における役割を実証研究で検証することにある。過去五年間において防衛策を導入した日本企業を対象に、防衛策導入によって生じた株式市場の反応を調べた。買収防衛策の形態としては定款変更、信託型ライツプランや事前警告型などが採用されていたが、事前警告型がもっとも一般的である。全160件のサンプルを調べた結果、防衛策導入がメディアで報道された目において導入企業の異常収益率が0.007%、その1日前は-0.363%、その1日後は-0.214%であった。報道日前後3日間の累積異常収益率は-0.58%であり、統計的には有意であった。この結果は欧米の結果と一致している-Malatesta(1988)では定款変更や毒薬条項を導入した企業の異常収益率が-1.2%であったと報告された。つまり、日本でも買収防衛策は経営陣の保身策として導入され、企業価値を損なう恐れがあると捉えられる。内部取締役が支配的であった日本企業にとって、買収防衛策はさらに経営陣の支配を強め、Agency costを高めることから、株式市場がネガティブな反応をしたと考えられる。
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