本年度の研究では、昨年度に引き続き、そもそも、わが国において市場規律か機能しているのかどうかを明らかにしようと試みている。前年度は、市場規律が機能しにくい相互会社・生命保険市場に焦点を当てた研究の成果を発表してきたが(現在海外雑誌でReviewerとのやりとりをしている研究も含む)、本年度は、同様に市場規律が機能しにくいと考えられる国営銀行に関するサーベイ論文を『城西大学国際教育センター紀要』から、わが国の政府系金融機関の効率性や生産性に関する研究を『生活経済掌雑誌』から公刊した。一運の研究では、海外でも国営銀行が数多く存在していること、そして、そうした国営銀行の効率性や生産性は民間銀行に比べて低いこと、わが国の他の金融機関同様に、規制緩和以降に、政府系金融機関の効率性や生産性にばらつきがみられるようになってきたことを明らかにしている。 また、本度の研究では、昨年度に実施した買収防衛策にするサーベイに基づき、わが国の買収防衛策に関する実証的な研究も進めてきた。海外の既存の研究では、買収防衛策を導入することは、一般的に株式市場ではマイナスに評価されていることが明らかになっていたが時点でのわが国の実証研究の結果からは、アメリカなどとは逆に、買収防衛策の導入が企業価値を高める、すなわち、買収防衛策の導入が望ましいと捉えられている可能性があることが明らかになってきた。アメリカなどの海外の事例と異なった結果で、今後、買収防衛策の効果を考える上で有益な研究であると考えられるため、現在その成果を海外の学術雑誌に投稿している。 つまり、今年度の研究では、国有銀行のデータを用いて、市場規律の有無が、海外やわが国でも実際に企業の行動に影響を与えるという事実を確認し、そして昨年度の買収防衛策に関するサーベイの結果に基づいて、わが国の買収防衛策に関する実証的な研究を行ってきた。昨年度のでは、市場規律が働かない相互会社では、効率性が低いことを発見していて、本年度の研究でも、国営銀行の効率性は民間銀行の効率性に比べて低いことを発見しているなど、市場規律が企業の価値を高めていくのに有効であると考えられる一方で、わが国の買収防衛策に関しては、市場規律を働きにくくすることが企業価値を高めると評価されている。すなわち、強すぎる薬が健康によくないように、市場規律が効きすぎることは、特にわが国では、企業の価値を高めない可能性があることを発見している。昨年度、本年度の研究の成果は、市場規律が企業にもたらす影響は一様ではなく、各国・各産業・各時代に応じて実証研究を積み重ねていく必要性が高いことを改めて確認したことに意義がある。
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