研究概要 |
本年度はBoot and Thakor(2000, JF)とStein(2002, JF)の理論モテルに基づき、地域の貸出市場における信用金庫の行動が地域経済における企業の倒産状況に対してどのような影響を及ぼしてきたかを分析した。地域の貸出市場においては地方銀行(第2地銀を含む)と信用金庫が主要なプレイヤーである。信用金庫は株式会社ではない協同組織金融機関であり、地方銀行よりも小規模であるという特徴をもっているので、Stein(2002)の示唆するrelationship lenderとしての特徴が強い。本研究の仮説は、信用金庫が地方銀行に比べて高い不良債権比率(破綻先債権比率を除く)を有する都道府県では、個人事業主などの小規模企業の倒産比率が低い、である。このような仮説が考えられるのは、信用金庫は地方銀行よりも、小規模企業の情報をよく知っているので、それらが財務上危機に陥っているように見られてもそれらを救済して、倒産を回避することができるからである。パネル分析の結果、適切な変数をコントロールしても、不良債権比率(破綻先債権比率を除く)は各都道府県の小規模企業の倒産比率に対して、1%水準で有意に負の影響をもたらしていたことが分かった。 本研究の結果はBerger et al(2005, JFE)などのrelationship lendingに関する分野における実証結果として学術的な価値が高いと考えられる。また、日本の金融システムにおける協同組織金融機関の役割を考える上でも現実的なインプリケーションがえられているという点で、重要な意義があると考えられる。信用金庫は地方銀行等に比べて不良債権比率などが高いことはよく知られているが、そのような経営が可能であったのは市場からの圧力によって短期主義に陥る必要がなかったからである。
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