今年度の研究では、法人税や企業の資金調達手段の選択を明示的に取り入れた動学的一般均衡モデルを構築し、現在から将来にかけての企業行動をより現実に近い形で描写した上で、法人税の転嫁と帰着を分析できる枠組みを築いた。 法人税負担の帰着は、企業の設備投資資金の調達手段が、株式の増発(増資)によるのか、社債の増発によるのか、内部留保によるのかによって、その度合いが異なる。社債には、法人税の節税効果があることなどがその結果に影響を与えている。公共経済学の文脈で言えば、Traditional Viewとして、企業の限界的な資金調達手段が新株発行で、企業の限界的な利益処分方法が配当となる行動仮説と、Tax Irrelevance Viewとして、企業の限界的な資金調達手段が負債で、企業の限界的な利益処分方法が金融投資となる行動仮説と、Tax Capitalization Viewとして、企業の限界的な資金調達手段が内部留保で、企業の限界的な利益処分方法が配当となる行動仮説がある。これらを明示的に扱った理論分析を行った。 その定性的な分析結果は、次の通りである。税負担の帰着は、税制改革(税率変更)が行われた直後には、資本投入量を短期的には柔軟に調整できないことから、一定程度の資本所得(配当所得・利子所得等)に税負担が転嫁されているが、資本投入量が完全に調整される長期においては、労働所得に税負担を転嫁されていることが明らかになった。この分析結果を、次年度以降の定量的分析(シミュレーション分析)に生かす予定である。
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