本研究の背景には、今後我が国において、消費税増税が検討されるとともに、法人課税の実効税率の引き下げという政策課題がある。特に、法人課税は国際的に見て負担が重いとの議論がある。その中で、消費税の増税と法人税の減税という政策パッケージは政治的に受け入れられないとの見通しもある。この見通しには、消費税は主に消費者が負担し、法人税は主に法人(関係者)が負担するとの直感があるが、これは法人税を中心とした転嫁と帰着について、学術的な研究の裏づけが明確に示されないまま主張が展開されているように思われる。 本研究では、動学的一般均衡理論に基づきつつ、法人税や企業の資金調達手段の選択を明示的に取り入れたモデルを構築することによって、現在から将来にかけての異時点間の企業行動をより現実に近い形で描写した上で、法人税を中心とした租税の転嫁と帰着に関する動学的一般均衡分析を可能にした理論モデルの構築を基に、シミュレーション分析を行った。法人税を中心とした租税の転嫁と帰着がどうなっているか定量的な分析結果を示した。 この分析に基づく結果は、昨年度に導いた定性的な結果とほぼ同様で、次の通りである。税負担の帰着は、税制改革(税率変更)が行われた直後には、資本投入量を短期的には柔軟に調整できないことから、一定程度の資本所得(配当所得・利子所得等)に税負担が転嫁されているが、資本投入量が完全に調整される長期においては、労働所得に税負担を転嫁されていることが定量的に示された。
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