21年度の研究計画に基づき、1.MSCB発行会社の破綻回避率2.第三者割当増資実施会社の破綻回避率3.企業金融の理論-多様な証券、公募と私募-、の3稿を執筆した。このうち、先の2稿は実証研究であり、後の1稿は理論研究である。 先2稿の実証研究における「破綻回避率」とは、私募増資を実施した東京証券取引所上場会社のうち、一定期間内に破綻しなかった会社の割合を意味する。MSCB発行会社については、所属部、発行市場、アップ率が、破綻回避率と統計学上有意な関係を持つことが示された。一方、第三者割当増資実施会社については、所属部、第三者割当増資の実施回数、割当先投資者数、希薄化率、ディスカウント率が、破綻回避率と統計学上有意な関係を持つことが示された。これらの結果は、投資者にとって会社の上場所属部や資金調達の履歴、証券デザインなどが破綻回避率を推定する重要な情報となり得ることを示唆する。証券取引所には、私募増資を計画する会社がこれらの情報を投資者に提示するよう求めることが望まれる。この点、東京証券取引所上場制度整備懇談会『安心して投資できる市場環境等の整備に向けて』に示される方向性は興味深い。 後1稿の理論研究においては、会社が多様な証券を複数の応募形式で発行する理由を、先行研究に求めた。調査の結果、証券のデザインを選択する際に考慮すべき事柄に、流動性、契約の不完備性、税率、情報収集の費用、証券発行会社の倒産確率、発行会社と投資者の間に存在する情報の非対称性などがあることが分かった。また、応募形式を私募にするか公募にするか選択する際に考慮すべき事柄には、過少投資問題、over-monitoringの問題などがあることが分かった。
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