近年金融均衡理論研究の興味の中心は、Financial stylized facts (以下ではFSFと略する)をできるだけ多くを包含するような、より洗練されたモテルの構築にあるといえる。もしそのようなモデルが見つかれば、金融資産価格形成に大きな役割を果たす要因が特定できるからである。しかしながら、一般に、これまでの伝統的な理論モデルで採用されてきた強い仮定を緩め、「情報の不完全性」や「投資家の限定合理性」を均衡モデルの枠内で分析するのは非常に難しい作業となる。本研究ではこのような分析上の問題に対して、エージェントベース・シミュレーションを積極的に用いることで、解析的こまことが困難な均衡収益率の統計的性質を明らかにし、既に知られているFSFとの整合性を検証したいと考える。 本年度は、研究計画に基づき、「均衡モデルのさらなる精緻化」をテーマとした。まず、情報拡散の価格への影響や、オプションなどより複雑な金融資産価格形成でのバイアスと意思決定モデルの関係を追求した。また、意思決定モデルそのものの精緻化も行った。近年、プロスペクト理論型効用モデルの精緻化が進んでいる。我々は、行動学的アプローチと脳神経科学アプローチの両面から、比較的大規模な経済学実験を行い、意思決定モデルをさらに精緻化した。さらに、この意思決定モデルを均衡理論の枠組みに粗み込み価格形成との関係をシミュレーションにより明らかにした。
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