平成19年度においては、データベースの購入やデータの整理、資料の収集など来年度の研究の準備を行うとともに、アジア諸国のソブリン債についての論文"Influence of ADB Bond Issues and US Bonds on Asian Government Bonds"を完成させた。これは12月に査読付きのJournalに掲載された。このほか、関連する報告を学会で行った。 本稿は、現在国際機関等によって実施されている債券市場整備への支援が何らかの効果を持っているのかどうかや、アジアの債券市場における国際的相関の有無に関する議論に貢献するものであり、関連する先行研究は非常に少ない。具体的には、香港、シンガポール、タイの国債の利回りデータを用いて、これらと米国国債の利回りとの連動性、さらに、こうしたアジア諸国の債券に対してADBの現地市場での債券発行が与える影響を明らかにした。はじめに、各国の債券市場を簡単に概観し、アジア諸国の債券市場が拡大していることを示した上で、実証分析の内容とその結果を示している。分析にあたっては、日次データの変動を考察すると共に、EGARCHによる推定も用いた。分析の結果、すでに米国国債のレートの変動は、シンガポール、タイ、香港の国債のレートの変動と正の相関があることが示された。また、回帰分析からは、ADBの現地市場での債券発行が、シンガポールとタイの国債レートをわずかではあるが低下させる方向に影響を与えていることが示唆された。すなわち、ADB債の発行は、シンガポールとタイの国債のリスクの評価に影響を及ぼしている可能性がある。本稿の分析により、すでにアジア諸国における債券市場の国際的相関は高まっており、また、国際的な資本移動がより活発化する状況の下、ADBなど国際的機関等の支援がアジアの債券市場の発展に貢献しうることが示唆されたといえよう。
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