研究概要 |
本研究の目的は,第一に中央政府による財政援助と地方政府間での財政競争との連繋構造を理論的に明らかにすることであり,第二にその連繋が日本の事例において成り立つかどうかを実証することである。 これらの目的のうち,本年度は主に理論的研究に重点を置いた。具体的な内容は,非対称な財政競争モデルの検討,財政援助についての先行研究サーベイおよび財政援助モデルと財政競争モデルとの統合の三つである。このうち,第一の研究では,規模の異なる非対称地域モデルでのゲーム均衡について考察した。そして,規模の小さな地域のみが行う部分的な財政協調政策によっても全体の厚生が改善される可能性を明らかにした。第二,第三の研究においては,Goodspeed(2002),Doi and Ihori(2006),Jensen and Toma(1991)などの理論モデルをベースとして,地方債発行を含めた二期間での財政競争・財政援助モデルを構築している。均衡の計算過程においての技術的な問題が見つかったため,現在はゲーム構造等の改良を検討している段階である。 これらの研究を踏まえて,次の二点を次年度の課題とする。第一は,構築中の財政競争・財政援助モデルの完成と日本の地方財政関係に適用するための改良である。第二は,日本の事例を用いた実証研究である。後者については既存の研究(菅原・國崎(2006)「財政競争の実証分析-日本の都道府県のケースー」『愛知大学経済論集』第171号)を拡張した分析となる。しかしながら,理論的な枠組みが頑健でなければ推定結果の解釈があいまいになってしまうおそれがあるため,来年度前半は引き続き理論分析に重点を置く。
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