本研究の目的は、衰退する製造業とは対照的に発展を続け、今日に到るまで、事実上20世紀イギリス経済を牽引してきた金融部門の強靭性の秘訣を、とりわけ20世紀初頭における巨大銀行群の企業統治・経営戦略から明らかにすることにある。具体的には、同時期におけるイギリス株式銀行(商業銀行)を取り巻く様々な問題(銀行合同にともなう行内調和、銀行間の顧客獲得競争、中央銀行=イングランド銀行の低準備・レート活用政策への対応)、並びにそれを踏まえた企業統治と経営戦略を検討し、同時にその成果を検証していくことにある。 初年度である本年度は、こうした目的・課題を念頭におきつつ、まず関連事項に関する、先行研究における成果を確認した。それを元に更に論点を整理したうえで、「研究実施計画」通り、2度渡英し、イギリス・ロンドンにある、ロイズ銀行(Lloyds TSB Bank)、現HSBC(旧ミッドランド銀行Midland Bank)など主要金融機関資料室を訪ね、資料調査・収集を行った。特にロイズ銀行・HSBC両銀行では、アーキビストの全面的協力を得ながら、本研究の研究課題に照らしつつ、両銀行所蔵の本店関連資料カタログのほぼすべてを精査し、同時に関連すると考えられる資料現物を大量に確認していった。その中から、特に課題解明の手がかりとして重要となることが予想される資料を選択し、その一部(500-600枚)をサンプルとしてデジタルカメラ撮影もしくは複写(コピー)するなどして入手した。現在は、そうした資料の整理・分析を行っている。
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