本年度は、20世紀初頭の株式銀行が新たに展開した海外業務に特に注目した。20世紀初頭に構築された株式銀行と海外銀行のネットワークは、ロンドン・シティの国際金融センターとしての地位・競争力を高めたが、株式銀行の海外業務の実態(経営戦略・経営統治を含む)については未だ不明な点が多い。そこで、本研究では、昨年度までにロイズ銀行などで収集してきた株式銀行の内部資料や、当時わが国の金融機関(日本銀行ほか)が調査した「ロイズ銀行の経営に関する報告書」、『バンカーズ・アルマナック』など銀行雑誌を駆使し、海外業務の組織形態・コルレス先の分布・銀行収益にしめる海外業務の割合などを精査し、その実態に迫った。 その成果の一部は、2009年度政治経済学・経済史学会秋季学術大会で報告したが、ロイズ銀行においては、少なくとも第一次大戦前には、海外業務を一元的に統括する部門は存在せず、また、海外業務を展開する上で明確な戦略も存在しないことが明らかとなった。こうした状況は、ミッドランド銀行などと比較すると若干の差はあるようであるが、他の銀行でも同様の傾向がみられた。第一次大戦前のこうした実態は、ジョーンズの学説(第一次大戦後の海外業務にみられる株式銀行の戦略なき迷走)に繋がるものであり、第一次大戦後のイギリス金融界を事実上リードしてきた株式銀行が、何ゆえ繁栄し続けたのかその理由を改めて考える上で重要な示唆を与えるものとして注目されよう。
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