本研究は、戦後において在日韓国人が所有、経営する企業を対象として産業経済活動の歴史的特長と要因を明らかにするものである。 平成20年の成果論文の「在日韓国人による民族系金融機関設立とその基盤 : 1950〜60年代の全国展開を中心に」(「歴史と経済』)は、上記の課題のなかで次のように位置づけられる。在日の経済活動の1つの特徴である.スピーディな産業構造の転換は、金融的バックアップが条件としてあったからであった。こうした在日の経済活動に関連して、民族系金融機関は、全国的に朝鮮総連と民団系の二つの系列で設立されたことによって特徴づけたと考えられる。同論文では、民族系金融機関のあり方を規定した設立過程を明らかにし、そのあり方が在日の企業活動において果たした機能について展望した。設立については、研究史的に、従来は主に南北対立という政治的背景から説明されてきたが、本論文では経済的要因を付け加えて解明した。国際にみると、アメリカの黒人・中国人・日本人の民族(人種)集団が設立した金融機関が集団の経済発展の未熟さや経営資源の不足によって長期的な成長ができなかったことに対して、在日は金融機関の設立に伴う諸困難や初期経営にみられる脆弱な預金基盤をコミュニティからの支援によって克服することができた。 以上に加えて、民族系金融機関の経営実態を歴史的に解明した「代表的民金の戦後経営史」、各地域に二つの系列で設立された金融機関がどのような金融サービスを提供したのかについて分析した「1970年代における民金とその金融サービス」、これらの金融機関が在日が所有、経営する企業にとってどのような役割を果したのかについて明らかにした「在日企業の取引金融機関 : 民金の役割と原界」を執筆した。 以上、平成19年から交付をうけて進めてきた研究成果をまとめ、『「在日企業」の産業経済史 : その社会的基盤とダイナミズム』(名古屋大学出版会、2009年出版予定)を刊行する予定である。同書は、「21年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費<学術図書>)の交付を受けて出版される。
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