研究課題
本研究の目的は、19 世紀前半期における東部インド塩市場の構造と変容に関する実証的検討を通じて、植民地期南アジア現地経済のダイミズムを明らかにすることである。本年度は、研究実施計画にそって、在ロンドン英国図書館および在コルカタ西ベンガル州立文書館において、イギリス東インド会社関連文書の調査・収集をおこない、それをもとに、以下の3つの側面から市場構造の変容について検討した。第1は、製塩業における燃料問題である。東部インドでは蒸気機関の普及と石炭供給量の不足・高価格問題が薪炭・藁市場を含めた在来燃料市場の逼迫をもたらし、そのことが燃料多消費型のベンガル製塩業(煎熬塩生産)の高コスト化をまねいた。第2は、嗜好の影響である。市場で好まれるベンガル産煎熬塩生産の衰退に伴って、競争力をつけてきたのは燃料面で有利な南インド産天日塩であった。しかし、両者ともに1850年代にはチェシア塩に駆逐された。本研究で明らかになったのは、東部インドに輸入されたチェシア塩は、これまで考えられてきたような岩塩ではなく、市場で好まれるベンガル塩と同タイプの煎熬塩であったことである。今後さらなる検討が必要であるが、ベンガル塩衰退に伴う市場構造の変化は、供給サイド(イギリス産業資本の強さ)からのみ説明しうるものではないのである。第3は、植民地支配下における商取引制度の変化である。この時期には、新たな法制度の導入によって在来の商取引制度に大きな変化がみられ、それが塩商人の活動および市場に多大な影響を与えるようになっていった。以上のように、植民地期における現地経済の変容には、外的要因だけではなく、様々な現地の文化的・政治的・社会的要因が複雑に絡み合ってもたらされたといえよう。なお、本年度の成果の一部は、ディスカッション・ペーパーおよび学会報告で発表されている(研究発表欄参照)。
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Discussion Papers in Economics and Business, Graduate School of Economics & OSIPP, Osaka University
ページ: 1-20頁