本研究の目的は、高度成長期の松下電器において導入された仕事別賃金の特徴を明らかにするとともに、それが同社の人事労務管理制度にどのような影響を与えたのかを明らかにすることである。 「仕事別賃金」とは松下電器における呼称であり、その導入は松下労組の提案により実現したものであった。その賃金制度の目指すところは「同一労働同一賃金」の原則の基づく職務給であったが、導入過程において年功と能力差を加味する本給幅が導入された。したがって、その運用方法は、日本の人事労務管理制度の特徴とされる能力主義管理と理解されるものであった。 しかし、仕事別賃金の導入過程において明確化された仕事の格付けは、人事管理の構成要素である教育訓練、昇進および配置転換を結びつけ、人事労務管理制度の体系化の途を拓くものであった。すなわち、仕事の格付けがその仕事に必要とされる技能や経験などの基準を提供することで、教育訓練の内容や職場におけるフィードバックの明確化、さらには自己申告による異動事由の明確化も促進された。これは高度成長期における松下電器の事例から、情報的資源としてのヒトを活用する仕組みがどのようにして作られたかを考察する上で意義があるといえよう。
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