研究概要 |
本研究の目的は,質的・量的データに基づいて,コンテンツ産業における(1)企業家のキャリア形成の実態と(2)産業ネットワークの様相を明らかにした上で,(3)(1)と(2)のダイナミックな関係のメカニズムを解明することである。 平成19年度は,研究期間の1年目にあたるため,主として研究の基盤整備に取り組んだ。 具体的には,まず,研究課題に関する先行研究の整理検討を通じて,理論的枠組みの構築に着手した。その成果の一端が,境界に囚われないキャリアの捉え方について論じた「境界のないキャリア概念の展開と課題」である。そこでは,制度と実践(主体の)の両面から企業家のキャリアと産業内の主体との関係性を捉える視角が提示されている。このようなアプローチは,近年経営学における新たな理論的潮流として注目されている新制度学派の組織論に基づいている。更に,欧米が先導する制度論において体系化が進められている「制度的企業家」の研究プロジェクトに参画し,既存研究の意義・限界について徹底的に議論することで,自らの理論的枠組みの精緻化に努めた。この活動を踏まえた成果の一端が,「インキュベーション施設におけるクリエイターのアイデンティティと行為戦略の発現メカニズム」である。そこでは,主体のアイデンティティに注目しながら,制度に埋め込まれながらも多様な実践が展開されるメカニズムが描かれている。 また,コンテンツ産業の企業家に対して,上記の枠組みに基づく試験的なフィールド調査を実施した。 以上のように,欧米が主導する先端的な領域を整理検討した上で実証研究に向けた枠組みを整備していくことは,我が国における当該領域の研究水準の引き上げという理論的貢献に加えて,より現実に即した政策立案(価値創出を担う企業家人材の輩出と産業全体の持続的発展に関する)への示唆という実践的貢献にも結びつく。
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