研究概要 |
本研究の目的は, 質的・量的データに基づいて, コンテンツ産業における(1) 企業家のキャリア形成の実態と(2) 産業ネットワークの様相を明らかにした上で, (3) (1) と(2) のダイナミックな関係のメカニズムを解明することである。研究期間の2年目である平成20年度は, 前年度の活動を踏まえて, 理論的厳密性の更なる向上を図るとともに, 中間的な研究成果を論文や学会において発表した。 具体的には, まず, 近年欧米で盛んに議論されている新制度派組織論における中心的トピックである「制度的企業家」に関する研究プロジェクトに継続的に参加し, 理論的枠組みや方法論の精緻化に取り組んだ。その成果の一端が, 組織学会のテーマセッションで報告された「制度的企業家をめぐる理論射程の経験的検討」である。そこでは, 制度に埋め込まれながら制度を変更する制度的企業家の実践を捉える有力な方法の一つとして言説分析の可能性が提示された。誰が何についてどのように語るかを分析する言説分析は, 近年, 欧米を中心に理論的・経験的研究が蓄積されつつあるが, 多くの議論は主体の実践について語る我々を特権化した研究に終始しがちである。このような既存研究の限界を認識し, その乗り越えを志向した成果の一端が, 「制度的企業家の言説分析-フリーランス・クリエイターの世界-」である。そこでは, フリーランス・クリエイターを巡る言説と彼らの語りを突き合わせ, 双方の乖離・ズレを鮮明化させることで, 既存の言説の徹底的な相対化が図られている。 以上のように, 欧米が主導する先端的な領域を整理検討した上で経験的研究に向けた枠組みを整備していくことは, 我が国における当該領域の研究水準の引き上げという理論的貢献に加えて, より現実に即した政策立案(価値創出を担う企業家人材の輩出と産業全体の持続的発展に関する)への示唆という実践的貢献にも結びつく。
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