研究概要 |
本研究の目的は,コンテンツ産業における(1)企業家のキャリア形成の実態と(2)産業ネットワークの様相を明らかにした上で,(3)(1)と(2)のダイナミックな関係のメカニズムを解明することである。今年度は,これまでの活動に基づく最終的な成果の一端を公表することに取り組み始めた。 まず,「フリーランスの言説スペクトル」において,本研究の主要な対象であるフリーランスを巡る言説の整理・検討を通じて,彼らの実践を捉えるための新たな視角を提示した。具体的には,彼らを巡る既存の言説が「騎士」,「従僕」,「英雄」に大別されることを示し,各言説の具体的内容を明らかにした上で,各言説が紡ぎだされる力学(言説の背後に潜む,フリーランス,企業,研究者から成る権力関係)に関する検討を通じて主体の多面的な実践を捉える視角を提示した。また,「制度の言説分析」を執筆し,国内の主要学術誌に投稿した(2010年4月現在,審査中)。そこでは,フリーランスを巡る言説と彼らの語りを実際に突き合わせ,双方の乖離・ズレを鮮明化させることで,既存の言説の徹底的な相対化を試みている。これは,近年欧米で大きな注目を集める新制度派組織論での中心的トピックである「制度的企業家」を捉える有力な方法の一つである「言説分析」の徹底的な実践を図ったものである。さらに,「フリーランス・クリエイターを巡るコンテンツ産業の構造」において,彼らを巡る産業構造の現状と課題について論じた。そこでは特に,日本のコンテンツ産業を振興する上で,フリーランスが取り結ぶ人的ネットワークを積極的に再編成する必要性が指摘された。 以上の実績は,欧米が主導する先端的領域の詳細な整理検討及び,それを踏まえた経験的研究の蓄積という理論的貢献と,より現実に即した政策立案(価値創出を担う企業家人材の輩出と産業振興に関する)への示唆という実践的貢献を有すると考えられる。
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