本研究は、移行経済における公式的及び非公式的制度の地域差が、取引費用の上昇を通じて外国企業のパフォーマンスにどのような影響を与えるのかを理論的、実証的に分析することを目的として始められた。本年度は、昨年度の現地インタビュー調査から得られた知見を、より大きいサンプルで実証することを主たる目標とした。昨年度の調査から、中国内に地域ごとの制度のばらつきはあるが、それは地域特性であると同時に属人的な性格を持ったものであることが分かった。そのため、地域特性を強調するより、日系子会社が直面する制度が、それぞれの経営にどのような影響を及ぼすかに関して実証分析を行うこととした。データの収集は、インタビュー調査から得られた知見をもとに作成した質問票を用いた。最終的に229社から有効な回答を得た。その結果、競争力の源泉となる経営資源を持つ日系子会社ほど業績が良いことが分かった。しかし、中国における経済活動を規定する法体系の未整備あるいは制度的弱さを考慮すると、この関係がモデレートされることもデータから示された。すなわち、法体系の弱さに直面している日系子会社は、たとえ競争力の源泉となる経営資源を持っていても、それが業績につながらないことがあることが分かった。さらに、現地地方政府の外国企業に対する態度も、経営資源と業績の関係をモデレートすることも分かった。すなわち、現地地方政府からのサポートを受ける場合、中国現地での経営ノウハウがなくとも、満足した業績を上げられることがデータから示された。本研究は、経営資源と中国現地法人の業績との正の関係が、中国の未発達な制度によってモデレートされるということを実証的に示したという点で、移行経済における子会社経営に関する研究に一定の貢献をしたと思われる。
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