本研究の目的は、企業のガバナンス構造が経営の効率化に寄与するメカニズムを企業内部の具体的な変革イベントに対する影響という視点から解明することであった。昨年度の研究成果としては、まず、効率的な企業経営の重要性が増大したという議論の前提となる事実として、日本企業における事業構造の複雑化を、東証一部上場企業(非金融部門)をサンプルとした詳細なデータベースを用いて丹念にフォローした。具体的には、多角化やグローバル化、グループ化が1990年代以降進展しているという事実の様式化に努めた。これまで、概ね1980年代までの日本企業の多角化に関しては事実が広く共有されていたが、本研究では90年代以降の日本企業の事業ポートフォリオの変容を明らかにした意義がある。この事業構造の変容の結果、グループ経営の強化が重要な戦略的課題となり、本社による傘下事業組織のコントロールの在り方が企業成果に大きく影響するようになった。そこで、事業単位に対する分権化とモニタリングの観点から、事業組織のガバナンスの実態にアプローチした。以上の分析結果をまとめた論文「日本企業における事業組織のガバナンス-企業の境界と二層のエージェンシー問題の視角から-」は、経済産業研究所(RIETI)のディスカッションペーパー(2010年12月、10-J-057)として公表された。また、分析の要点とインプリケーションは、2011年1月18日の日本経済新聞朝刊の「経済教室」に掲載された。一方、企業の変革イベントの一つとして注目していた経営者の交代関連の分析については、経営者交代の有無、交代パターンの特定や経営者の在職年数などのデータ準備に時間がかかり、現在データセットがようやく完成した状況である。このデータを用いた分析は今後の課題である。
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