今年度は本テーマについて大別して2つの研究作業を行った。第1は多国籍企業の国際戦略と組織変革に関する文献サーベイである。多国籍企業のグローバル戦略や組織能力・組織変革をキイワードとする欧米や日本の主要文献を収集し、購読・分析した結果、やはり本研究で当初より意図していたような、海外現地法人の緻密な記録資料をベースとした体系的な多国籍企業分析は、これまでそれほど数多く行われてきたわけではないことがわかった。また幾つかの実証研究は経営戦略と組織能力のダイナミクスを理解するうえで有効な分析結果を残しており、本研究のフレームワーク構築のためにも有用であった。第2は多国籍企業の組織変革に関するデータ収集である。まず松下電器の海外事業史については既に収集したものも含めて、さらに整理・分析を進めた。またトヨタ自動車のタイにおける組織能力の構築と展開については長年タイトヨタの経営に携わった要人へのオーラルヒストリーを行った。研究者はこれまでにもトヨタ自動車の北米進出のオーラルヒストリーなどにも関与しており、これらを総合して考察することで、松下電器の分析と並ぶ重要な調査が展開できると考える。これ以外にも多国籍企業のグローバル戦略や組織能力構築に関して理解を深めるために、主として東アジア地域に展開している企業や産業を対象として、幾つかの産業調査・企業事例の研究を行った。これらについては平成19年度の研究成果として一部公表済みのものもある。
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